東京高等裁判所 昭和25年(う)1605号 判決
原判決挙示の証拠によれば、原判示第一の事実即ち被告人が原審相被告人林昌烈と共謀の上原判示柳沢ヌイ方で原判示の如き窃盜をしたことは優にこれを認めることができるのであつて、原審には所論のような誤認はないのである。尤も所論のように原審公判調書には原審相被告人である林の供述として同人が現場近くになつて盜む気がなくなり、その内腹痛がして来たので、盜むことができず崔一人で盜みに行つた。荷物も崔一人で運んだ。崔から六百円の売得金の分配を受けたことはない旨の記載があるのであるが、記録を精査すると被告人及び原審相被告人林は右両者の共謀に係る右窃盜の公訴事実について、右事実は相違ないと述べてこれを自白して居り、右両者間に被告人崔の窃盜行為前に共謀が行われ、この共謀にもとずいて現場である被害者方に行つたものであること、原審相被告人林の右供述は同人の内心の心理過程をあらわしたに過ぎず、その旨を被告人崔に話して自己の犯行を中止する旨を明言した事実はなく、偶々腹痛が起きたので、被告人崔一人が実行行為を担当し、両名共謀にもとずく窃取行為を完成したものであることが認められ、たとえ共犯者中の一人が内心では共謀した犯罪事実を実行する意思がなくなつたにせよ、これを他の共犯者に表明して共謀に係る犯罪の実行から断絶する手段に出ない限り、他の共犯者が共謀に係る犯罪行為を実現した以上は、その実現した結果について共同正犯者としての責任を負うべきものと解するを相当とするから、所論は理由がない。